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 ゆきまつ孝太郎活動報告〔無所属〕

名張市議会議員【2期目】 教育民生委員長

2011-05-07 [ Sat ]
テーマ:TPP

 昨日、農業・農協問題研究所の三重支部代表の村上一彦氏による学習会が武道館いきいきであった。お話の内容は、TPP問題のQ&Aについて農林中金総合研究所の資料があるので紹介しよう。

 TPP(環太平洋連携協定)に関する Q&A
Ⅰ TPPと日本の貿易政策
1.TPPとは何か
 TPPはTrans-Pacific Partnershipの略であり、「環太平洋連携協定」「環太平洋パートナーシップ協定」と訳されている。加盟国間の関税を撤廃し、サービス貿易、政府調達、競争、知的財産権、人の移動等の取り決めを含んだFTA(自由貿易協定)、EPA(経済連携協定)の一つである。

TPPは2006年3月にニュージーランド、シンガポール、チリ、ブルネイの4カ国(P4)で発足したが(Trans-Pacific Strategic Economic Partnership)、08年9月に米国がTPP参加に向けた交渉開始を表明し、2010年3月にP4に米国、豪州、ペルー、ベトナムを加えた8カ国で交渉が開始された。その後、2010年10月の第3回交渉よりマレーシアが参加し、現在9カ国で交渉が行われている。2011年10月までに計9回の交渉を行い、11月のAPEC首脳会議(ハワイ)で妥結することを目指している。

 P4協定ではほぼ100%の関税撤廃が行われており、9カ国のTPPにおいても高レベルの関税撤廃が行われる可能性が高い。

 TPP交渉参加国の概況国名人口(万人)面積(万km2)GDP(億ドル)コメント対日FTAニュージーランド42727868乳製品が最大の輸出品目×チリ572761,574果実の輸出国○シンガポール4740.11,822農業のない国○ブルネイ400.6119産油国○米国31,466963141,190経済大国、農業大国×豪州2,1297709,972対日農産物輸出大×(交渉中)ベトナム8,57933915米の大輸出国○マレーシア2,747331,474ゴム、パーム油を輸出、米は輸入○ペルー2,9171291,268金、銅の輸出が5割○(未発効)日本 (参考)12,7293849,106世界最大の農産物純輸入国-資料:外務省資料等より作成

2.日本はこれまでFTA・EPAをどう進めてきたか
 日本は1990年代まではGATTによる多角的貿易体制を重視し、世界経済の地域主義的傾向(EU、NAFTA(アメリカ、カナダ、メキシコ3国による北米自由貿易協定)等)を批判してきた。当時、日本は、米国と東アジアの双方を含んだAPEC(1989年結成)による「開かれた地域主義」を推進していた。

 しかし、日本は、メキシコとEUがFTAを締結した2000年頃より方針を転換し、FTAを推進するようになった。また、中国がASEANとFTAを締結する方針を示したことも、日本の方針転換を大きく加速させた。
当初FTAに対して慎重であった農林水産省も、2004年11月に「みどりのアジアEPA推進戦略」を発表し、EPAによって、①食料輸入の安定化・多元化、②安全・安心な食料の輸入、③日本ブランドの農産物輸出促進、④食品産業のビジネス環境の整備、⑤農業協力等によるアジアの貧困の解消、⑥環境問題への取り組み、などを行い、アジアにおける食料安全保障を確保し、各国の農林漁業の共存を図る、という内容のEPA推進方針を打ち出した。農業団体も、こうした農林水産省の方針を受け、重要品目を除外できるのであればFTAを締結することもやむを得ないとして、FTAに対してそれほど強い反対はしてこなかった。

 その結果、日本はこれまで、シンガポール、メキシコ、ASEANなど11の国・地域とFTAを締結し、インド、ペルーとのFTAに合意した。さらに、現在、豪州、GCC(湾岸協力会議。アラブ首長国連合、バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア)とFTA交渉を行っている。

 このように日本が締結しているFTAはASEANが中心であり、ASEAN以外の国はメキシコ、チリ、
TPP交渉の作業部会1首席交渉官協議13サービス(越境サービス)2市場アクセス(工業)14サービス(電気通信)3市場アクセス(繊維・衣料品)15サービス(商用関係者の移動)4市場アクセス(農業)16サービス(金融)5原産地規則17サービス(電子商取引)6貿易円滑化18投資7SPS(衛生植物検疫)19環境8TBT(貿易上の技術的障壁)20労働9貿易救済(セーフガード等)21制度的事項10政府調達22紛争解決11知的財産権23協力12競争政策24横断的事項特別部会(注)「24 横断的事項特別部会」は、中小企業,競争,開発,規制関連協力に関する部会

 スイス、インド、ペルーである。メキシコ、チリ、スイス、ペルーとのFTAは、米国やEUへの対抗上締結したものであり、インドとFTAを締結したのはインドが戦略的に重要な国であるためである。
いずれのFTAにおいても、日本にとって重要な農産物は除外しており、重要品目の除外が認められない可能性の高い豪州とのFTA交渉は難航している。

3.TPPと従来のFTA・EPAとの違い
 TPPはFTA・EPAの一つであるが、日本がこれまで締結してきたFTA・EPAとは、以下の点で大きく異なっている。
① 日本がこれまで締結したFTAは二国間(バイラテラル)が中心であったが、TPPは多国間の協定である。
② これまでのFTA相手国は日本より経済規模の小さい国であったが、TPPは日本より経済規模の大きな米国を含んでいる。
③ これまでのFTAでは農林水産物の重要品目を除外してきたが、TPPでは重要農産物を含め例外なく関税が撤廃される可能性がある。
したがって、日本がTPP交渉に参加するとなると、その交渉内容はこれまでのFTA交渉とは大きく異なる見込みである。
日本のFTA締結状況相手国政府間交渉協定署名協定発効シンガポール 2001.1~ 2001.102002.12002.11メキシコ 2002.11~ 2004.92004.92005.4マレーシア 2004.1~ 2005.122005.122006.7チ リ 2006.2 ~ 2007.42007.32007.9タ イ 2004.2~ 2005.92007.42007.11インドネシア 2005.7 ~ 2006.112007.82008.7ブルネイ 2006.6 ~ 2006.122007.62008.7フィリピン 2004.2~ 2004.112006.92008.12ベトナム 2007.1 ~ 2008.92009.22009.9ASEAN全体 2005.4 ~ 2007.82008.42008.12スイス 2007.4 ~ 2008.92009.22009.9インド 2007.1 ~ 2010.9ペルー 2009.5 ~ 2010.11韓 国 2003.12~(中断)GCC 2006.9 ~豪 州 2007.4 ~資料:農水省、外務省資料より作成

 日本がTPPに参加することは、これまで農産物の扱いに関して対立していたためFTAの締結が困難であった米国、豪州、NZと一気にFTAを締結することと等しい。また、TPP参加国の中には既に日本とFTAを締結・合意している国も6カ国(シンガポール、マレーシア、ベトナム、ブルネイ、チリ、ペルー)あるが、日本がTPPに参加するとなると、これらの国との既往FTAの内容見直しが必要になるであろう。

4.日本のこれまでのFTA交渉スタンスとTPP参加の関係
 TPPへの参加は、FTA推進という点ではこれまでの日本政府の方針の延長線上にある。また、TPPは、2010年(途上国は2020年)までにAPEC加盟国間の資本・貿易自由化を進めるとしたボゴール宣言(1994)や大阪行動計画(1995)の路線に沿ったものであるということもできる。

 しかし、日本がこれまで締結してきたFTAでは農産物の重要品目を除外しており、例外品目がわずかなものしか認められない可能性の高いTPPは、これまでのFTAとは根本的に異なっている。また、人の移動、サービス貿易等に関しても同様のことが指摘できる。

さらに、日本はこれまで「東アジア共同体」を提唱しASEAN+6(日中韓・印・豪・NZ)の枠組みを推進してきたが、米国主導のTPPの枠組みは、これまで進めてきた枠組みとも矛盾する面を含んでいる。

5.日本はこれまでのFTA・EPAをさらに広げる方法をなぜとらないのか
 TPPの参加国は、農産物輸出国(米国、豪州、NZ、ベトナム、チリ)が多く、農産物を含めた例外のない関税撤廃が求められる見込みであり、これまでのように重要品目をすべて除外することは難しい。また、TPPは、日本より経済規模が大きく日本に対する政治的影響力が大きい米国が主導する枠組みであり、関税以外の分野についても米国の強い要求が出てくる可能性が高い。そのため、TPP交渉はこれまでの二国間のFTA交渉とは異なる交渉となる見込みである。

 日本は、TPPに参加しないで米国、豪州、NZと個別にFTA交渉を行おうとしても、これらの国との間で重要品目を除外することは難しいため、交渉の難航が予想される。また、日本が参加しないままにTPP交渉が妥結すると、その後に日本がTPPに参加するためには、既往のTPP参加国すべての合意を取り付ける必要があり、TPPの枠組みに入るのは困難になる。そのため、FTAを推進したい産業界は、TPPに参加することによって一気に米国、豪州、NZとFTAを締結するのと同等の効果を得たいと考えている。

6.TPPに参加しないと日本は乗り遅れるか
 TPPは、2011年10月までに交渉を終え、11月にハワイで行われるAPEC首脳会議での妥結を目指しており、交渉は急ピッチで進められている。
日本は、TPP参加国のうち米国、豪州、NZを除く6カ国とは既にFTAを締結しており(ペルーは合意のみで未発効)、

 これらの国との間ではTPPによって日本が新たに得られるものは少ないと考えられる。一方、日本がこれまでFTAを締結していない米国、豪州、NZとの間ではTPPの影響は大きく、なかでも米国との関係が最大の問題である。韓国は米国とFTAに合意したが、米韓FTAが発効すると、韓国製品に対しては米国の関税は撤廃されるが、日本製品については引き続き米国の関税がかかるため、このことは日本の対米輸出にとってマイナス要因となる。このように、「日本が乗り遅れる」と言われる場合、主に韓国との関係が念頭にある。

 しかし、米韓FTAでは、投資条項(ISD制度)など韓国の経済主権を侵す内容が盛り込まれており、こうした米国に対する従属的な内容を受け入れてまで日本がTPPに参加するのか、あるいは米国とFTAを締結するのかが問われている。

7.TPPに参加すると既に締結したFTAや今後のFTA交渉にどのような影響がでるか
 日本がこれまでTPP参加国との間で締結してきたFTAでは関税を撤廃していない品目が1割以上あるが、TPPは例外の少ない関税撤廃となる見込みが高く、重要品目の関税の扱いについて既存FTAの修正が必要になる。また、人の移動、サービス貿易等についても修正が必要になるであろう。

 さらに、TPP参加国(シンガポール、マレーシア、ベトナム、ブルネイ、チリ、ペルー)との間で従来のFTAの協定内容を修正するとなると、TPPに参加していない国(タイ、インドネシア、フィリピン、メキシコ等)からも、既存の協定内容の修正を求められる可能性がある。
なお、日本がTPPに参加すると、個別に日豪FTA、日米FTA、日NZFTAを締結する必要はなくなる可能性はあるが、日本とEUとの間のFTA締結に向けた動きが活発化することも考えられる。一方、日本がTPPに参加すると、日本と韓国、中国との間のFTA交渉にも影響を与えるであろう。

8.ASEAN+3、ASEAN+6とTPPの関係
 ASEAN+3、ASEAN+6は東アジア中心の枠組みであり、米国中心の枠組みであるTPPとは矛盾する面を有している。米国は東アジアが米国抜きで結束することを快く思っておらず、特に中国中心で東アジアの枠組みが形成されることを警戒している。ある意味では、TPPは米国が東アジアの結束に関して「横ヤリを入れた」という意味があり、アジア地域を分断する役割を果たしている。これまで米国は、他国の国内事情を考慮せずに自国の利害を優先させて対外政策を行い、それによって当該地域の経済的・政治的安定が損なわれることがたびたび起きており、こうした米国の外交姿勢を批判し警戒する必要がある。

 TPPにマレーシア、ベトナムが参加すると、TPPに参加しないタイ、インドネシア、フィリピンとは米国の適用関税が異なり、また米国からの輸入品に対する関税がTPP参加国と不参加国では異なることになる。そのため、TPPはASEANの協調を乱す要因となり、ASEAN域内の経済統合を進めるうえで障害になるであろう。
なお、豪州、NZ、インドを含めたASEAN+6の枠組みは、東アジア地域の統合がASEAN+3の枠組みによって中国主導で進むことに対する警戒感から日本が提起したという経緯があり、東アジアの経済統合の主導権を巡って各国のせめぎあいが続いている。

9.TPPを締結するとWTO等の他の通商交渉にどういう影響があるか
 FTAはWTOの大原則である最恵国待遇(特定の国を他の国と差別的に扱わない)と矛盾する面を有しており、例えばTPPが成立すると米国主導の経済ブロックが形成され、TPP参加国と非参加国で適用関税が異なるということになる。

 WTOでは、こうした事態を防ぐためFTAの規律に関する条項を設け(第24条)、FTAを締結する場合の条件を定めている。しかし、現実の世界のFTAを巡る動向は、GATT成立当時想定したものとは大きく異なってきており、FTAが近隣地域の経済統合ではなく政治的な思惑から地理的に離れた地域と締結される事例が増大している(米国と中東諸国とのFTA、米韓FTAがその典型)。また、各国が「カヤの外」に置かれないようにするためFTAが連鎖的に増加しており、世界的にFTAが蔓延している。

アジア太平洋地域の経済連携構想 チリ ペルー 米国 カナダ メキシコ ラオス タイ シンガポール 日本 台湾 カンボジア フィリピン マレーシア 中国 香港 ミャンマー インドネシア ベトナム 韓国 パプアニューギニア ブルネイ ロシア インド 豪州 NZ

 もし日本と米国、EUがFTAを締結するとなると、世界の主要国間において関税のない世界が実現することになるが、その一方で、こうした枠組みの外にある国に対する差別的扱いが問題になる。そうなると、WTOの最恵国待遇原則の意味が薄れ、WTOの存在意義が弱まることになろう。このように、TPPに代表されるFTAはWTO原則との関係でも大きな問題を含んでおり、WTOの場でFTAの規律について再検討を行うべきであり、TPPについてもWTO原則との関係で批判的に検討する必要がある。

 また、WTO交渉では農業保護のあり方についても交渉しており、日本はWTO交渉で農業の多面的機能と各国の農業の共存を主張してきたが、TPPではこうした農業政策に関する議論が十分行われない可能性が高く、これまでのWTOにおける積み重ねが失われてしまうという問題もある。

世界主要国のFTA締結状況アジア(除中東)中東・アフリカ米 州その他日 本シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、ブルネイ、フィリピン、ベトナム、ASEAN-メキシコ、チリスイスインド、ペルー豪州、GCC韓国(中断)米 国シンガポールイスラエル、ヨルダン、バーレーン、オマーン、モロッコカナダ、メキシコ、チリ、ペルー、中米(6カ国)豪州コロンビア、パナマ、韓国TPP、タイ(中断)、南部アフリカ(中断)E U-シリア、パレスチナ、イスラエル、ヨルダン、レバノン、チュニジア、モロッコ、南ア、エジプト、アルジェリア、トルコ、フェロー諸島メキシコ、チリスイス、EEA、旧ユーゴ5カ国、アルバニア韓国、コロンビア、ペルー、中米(6カ国)、ACP(一部)ASEAN、シンガポール、ウクライナ、リビア、カナダ、GCC、メルコスール、インド、ACP(一部)韓 国シンガポール、インド、ASEAN-チリEFTA米国、EU、ペルーカナダ、メキシコ、NZ、GCC、豪州、コロンビア、トルコ、日本(中断)中 国シンガポール、香港、マカオ、ASEAN、パキスタン-チリ、ペルーNZコスタリカ豪州、GCC、アイスランド、ノルウェー資料:JETRO、外務省資料より作成

(2)TPPの日本農業への影響
1.日本の農産物関税率は高いか
日本は世界最大の農産物純輸入国であり、これまでのGATT交渉や貿易自由化により農産物の関税水準はかなり低くなっている。日本の農産物の平均関税率は11.7%であり、米国(5.5%)よりは高いが、EU(19.5%)、韓国(62.2%)、スイス(51.1%)、インド(124.3%)などの国に比べると低い(OECD「Post- Uruguay Round Tariff Regimes」(1999))。特に、大豆、トウモロコシなどの関税率は0%になっており、野菜の関税率も低い(3~9%)。
しかし、一部に高関税品目が残っていることも事実であり、こんにゃく(1700%)、米(778%)、砂糖(328%)、バター(360%)、小麦(252%)などが高い。また、牛肉(38.5%)、オレンジ(40%(季節により20%))、加工用トマト(20%)などの関税率も高く設定されている。これらの品目は日本農業にとって重要な品目であり、関税を撤廃すると生産農家や産地に大きな影響が出るであろう。

 なお、WTOでは、国内農業保護の指標としてAMS(Aggregate Measurement of Support:助成合計量)という概念を使っており、またOECDではPSE(Producer Support Estimate:生産者支持相当量)という概念を使って各国の保護水準を計測している。これらの指標で計測すると日本は高い水準の農業保護を行っているとされるが、その計算に際して品質格差を考慮していないという問題があり、日本の実際の保護率はPSEで現れた数字よりは小さい。

2.日本はこれまでのFTAで農産物関税をどう扱ってきたか
WTO協定(第24条)では、FTAを締結する際に、「実質的に全ての関税その他の制限的通商規則を撤廃する」ことを条件としているが、「実質的」という条項を「例外も一部認める」と解釈されており、多くのFTAではセンシティブ品目(重要品目)を関税撤廃の対象から除外している。

日本がこれまで締結してきたFTAでは、国内農業に大きな影響のあると考えられる品目を除外しており、これまでのFTAにおいて10年以内に関税を撤廃した品目(タリフライン)の割合(自由化率)は、84~88%である(対シンガポール84.4%、対メキシコ88.0%、対チリ86.5%、対タイ87.2%、対スイス85.6%、対フィリピン88.4%、対ブルネイ84.6%、対ベトナム86.5%、対マレーシア86.8%)。これまでのFTAで除外以外の対応をしたことのない品目は、乳製品、米、小麦、砂糖、でんぷん、水産物など450品目(うち農林水産物が400品目)あり、「再協議」とした品目も360品目ある。

TPPでは高水準の自由化率(96%以上の可能性がある)を求められる見込みであり、TPPに参加するとこれまで例外扱いにしていた品目の関税を撤廃しなくてはならなくなるため、TPP参加は日本の農林水産業に大きな影響を与えることになる。

3.農業・食品産業・農業資材産業への影響
TPP参加によって関税が撤廃されると、日本農業に甚大な打撃を与え、それに伴って食品産業等の農業関連産業にも大きな影響を与えるであろう。
農林水産省は、19品目(関税率10%以上、生産額10億円以上)を対象に、①輸入品と競合する品目は全て輸入品に置き換わる、②競合しない品目は安価な輸入品の流通により価格が低下する、という前提を置いて、TPP参加の日本農業に対する影響を試算している。

それによると、農業生産額は4兆1千億円減少し(5割減少)、食料自給率は14%に低下する。その結果、GDPは7兆9千億円(関連産業を含む)減少し、就業機会は340万人減少するとしている。
農林水産省の試算はやや単純な仮定をおいたラフなものであり、現実にはこの試算とは異なる結果になる可能性はあるが、TPP参加によって日本農業に大きな打撃を与えることは確かであり、特に、酪農、砂糖、小麦については乳業、製糖、製粉など関連する食品産業にも大きな影響を与えるであろう。また、影響の程度は地域によって異なり、特に北海道や沖縄への影響が大きいと考えられる。

なお、日本がFTAを締結すると相手国の関税も引き下がるため、日本の品質のよい農産物の輸出を拡大すればよい、との意見が一部にあるが、日本の農産物は価格が高いため輸出増大には限界がある。また、日本の農産物輸出額は農業生産額のごくわずかを占めるに過ぎず、農産物輸出拡大は日本農業の活路とはならない。

既存のFTA・EPAにおける関税の扱い(例外品目) 既存のFTA・EPAにおいて「除外」以外の対応をしたことがない 約450品目(農林水産品約400品目、鉱工業品 55品目) ・水産品 約 55 ・脱脂粉乳、ホエイ、バターなど乳製品 約 110 ・コメ、小麦、大麦、麦芽、でんぷん等穀物 約 70 ・てんさい糖など糖類 約 10 ・穀物、ミルク等の調製品 約 130 既存のFTA・EPAにおいて「再協議」または「スタンドスティル」としたことがある 約360品目(農林水産品約320品目、鉱工業品 40品目) ・肉類(牛、豚、鶏等)、肉調製品 約 40 ・パイナップル・トマト等の調製品 約 15 ・チーズ等乳製品 約 20 ・落花生、植物性油脂等 約 30 ・さけ、まぐろ等水産品 約 40 ・糖類・調製食料品 約100 ・トウモロコシ、でんぷん、穀粉等 約 25 ・合板 約 30 既存のFTA・EPAにおいて関税削減、関税割当をしたことがある 農林水産品 約130品目 ・肉類(牛、豚、鶏等)、肉調製品 約60 ・パイナップル・トマト等の調製品 約15 ・糖類・調製食料品 約10 資料:内閣府資料より作成

4.農業への財政資金投入をどう考えるか
EUは、92年のマクシャリー改革でそれまでの介入買い入れによる価格支持政策を大きく転換して直接支払いを導入し、また米国も96年に直接支払いを導入して不足払い制度を廃止した。そのため、こうした90年代のEU、米国の農政改革をもって、世界の農政の流れは「価格支持」から「直接支払い」に移行していると言われることがあり、戸別所得補償政策もこうしたEU等の改革を日本に導入したものであるということもできる。

このように、貿易自由化を進めて、それによって被害を受ける農業者に対して財政資金で補償-
[国境措置撤廃による農産物への影響 (農林水産省試算)品目生産量減少率 (%)生産額減少(百億円)説明米▲90▲197内外価格差は4倍強であり、一部のブランド米のみ残る。小麦▲99▲8小麦粉の内外価格差は2倍弱で、1%程度の国産差別化商品のみ残る。砂糖原料作物▲100▲15内外価格差は3倍強であり、国産砂糖は壊滅。でんぷん原料作物▲100▲2品質格差なく、すべて輸入品に置き換わる。こんにゃくいも▲90▲3生ずりこんにゃくのみ残る。茶▲25▲31番茶、2番茶は残る。加工用トマト▲100▲3品質格差なく、すべて輸入品に置き換わる。かんきつ類▲9▲1濃縮果汁・缶詰は輸入品に置き換わる。りんご▲9▲1濃縮果汁は輸入品に置き換わる。牛乳乳製品▲56▲45牛乳は生鮮品であるため8割は残る。乳製品は価格差大きく国産は壊滅。牛肉▲75▲45一部の和牛のみ残り、乳用種の全て、肉専用種の半分が輸入品に置き換わる。豚肉▲70▲46銘柄豚は残るが、他は輸入品に置き換わる。鶏肉▲20▲19業務用・加工用の半分が輸入品に置き換わる。鶏卵▲18▲15弁当用・加工用の半分が輸入品に置き換わる。その他▲5大麦、小豆、落花生等。計4兆1千億円]

-するというのは、一つのありうる方法である。日本の農業予算は約2兆円であり、農業予算の一部を農業者のための直接支払いに使うという政策は可能である。しかし、直接支払いの財源を確保するためには農業予算の組み替えや農政機構の改革が必要であり、それでも不足する場合は農業予算の増額が必要になる。日本の財政は大幅な赤字であるため増税は避けられないような状況になっており、農業に対する財政支出を増やすためには納税者、消費者の納得感が必要である。

なお、EUも米国も、直接支払いを導入したものの価格支持制度そのものは廃止していないし、生産調整は廃止したもののバイオ燃料によって穀物・油糧種子の需給調整を行っている。さらに、EUでは、直接支払いを生産とのリンクを切り離した単一支払いに移行し(デカップリング)、さらには直接支払い自体の見直しに着手しつつあり、米国は96年に廃止した不足払いを02年に名前を変えて復活している。このように、現在の世界の農政の状況は90年代とは大きく変化しており、世界の農政が「価格支持」から「不足払い」に移行しているとは一概には言えないような状況になっていることを理解する必要がある。

5.日本の食料の海外依存をどう考えるか
近年、気候変動等によって干ばつ、洪水が多発しており、2007~08年には豪州、ウクライナの干ばつ等によって国際穀物価格が高騰し、現在もロシアの干ばつ等により穀物価格は再び上昇してきている。こうした異常気象は今後も頻発する可能性があり、それによって世界の食料需給は不安定性を増す見込みである。

日本は世界最大の農産物純輸入国であり、食料を過度に海外に依存することは日本の食料安全保障を損なうことになる。したがって、日本としては一定程度の食料生産を国内で維持していく必要があるが、TPPに参加して関税が撤廃されると、輸入が増大して日本国内の食料生産が大きく減少する可能性が高いため、日本の食料安全保障にとってTPP参加は望ましくない。

6.アジア諸国からの農産物輸入は今後どうなるか
1980年代後半に円高の進行によってASEANや台湾からの農産物輸入が増大したが、90年代後半以降、中国からの農産物輸入が急増し、その一方でASEANや台湾からの輸入が減少に転じた。その後、2008年に起きた中国産食品の安全性問題によって中国からの農産物輸入は一時減少し、それに代わってASEAN諸国からの輸入が回復してきている。
今後も、中国、ASEANからの農産物輸入は一定程度見込まれるが、中国からの農産物輸入は、人民元の水準、中国国内での食料需給動向、中国の食品安全性への取り組みなどに左右されるであろう。米については、日本の米の関税率が低下すれば中国東北部からジャポニカ米が業務用を中心に輸入され、ベトナム、タイから加工用米の輸入が増加するであろう。

アジアのTPP参加国から農産物輸入が増大する可能性のある品目は、ベトナムの米、鶏肉、デンプンなどが考えられるが、マレーシア、シンガポール、ブルネイについては、大きな影響のある農産物はそれほど多くない(マレーシアは合板について影響が出る見込み)。

7.TPPによって日本の農産物輸出は拡大するか
日本の農林水産物輸出額は4,454億円で、このうち農産物輸出額は2,637億円であり(09年)、農産物輸出額は5年前に比べて29.4%増加している。農産物輸出額が増加している要因として、世界的に日本食ブームが起きていること、日本の農産物・食品の品質に対する評価が高いこと、農林水産省が積極的に農産物輸出振興事業を行っていること、などがあげられる。

しかし、農産物輸出額のうち加工食品(味噌、醤油、小麦粉、麺類、菓子等)が7~8割を占めており、しかもその多くが輸入農産物を原料としているため、農産物輸出が日本農業の発展に寄与する部分は小さい。
また、日本の農林水産物の輸出先はTPP参加国以外のアジア地域が多く(香港、台湾、中国、韓国で56%を占める)、TPP参加によって日本の農産物輸出が拡大することはそれほど期待できない。米国に対する農林水産物輸出は731億円(16.4%を占める)あるが、米国ではASEAN、中国からの食品輸入が増加しており、日本からの輸出増加には限界がある。

8.日本農業は世代交代期にあり農地の流動化が進んでいるが、この動きをどう評価するか
日本の稲作は構造改革のスピードが遅々としており、2010年における農家1戸当たりの平均稲作付面積は0.9haに過ぎない。稲作の零細構造が維持されてきた理由として、①稲作の作業が機械化して省力化したため、稲作は兼業農家でも維持することが可能であったこと、②食管制度によって米価が引き上げられ、小規模農家も稲作を継続できたこと、③昭和一けた世代にとって他産業への転業が困難であったこと、④農村の高齢者の年金水準が低いため高齢者が農業にとどまったこと、⑤米の生産調整の割当が一律であったため稲作の規模拡大の意欲が削がれたこと、などが指摘できる。

しかし、昭和一けた世代のリタイアが本格化し、また米の価格が低迷するなかで小規模農家が農業機械を更新することが困難になっているため、稲作農家戸数は急速に減少しており、そのなかで農地の流動化が進んでいる。借地になっている農地の割合は3割に達しており、集落営農や認定農業者への農地集積も進んでいる。したがって、日本の農政において農地集積の努力が行われてこなかったというのは誤解であり、構造変化は着々と進んでおり、今後も農地の集積が進んでいくと考えられる。

こうしたなかで、農協は、これまで農地の売買、利用権設定など農地の流動化を通じて農業経営規模の拡大、農地の集団化、集落営農組織の育成などを支援し、また農協出資法人等によって自ら農業経営に取り組み地域農業を支えてきた。

9.日本農業は構造改革によって国際競争力がつくか
日本の農家の平均経営面積は1.8haに過ぎず、米国(平均180ha)や豪州(3,400ha)とは比較にならないほど小さいため、日本では農業機械の効率的利用ができない。また、日本の賃金水準は途上国に比べて高いため、それによって生産される農産物価格も高くなるため、日本農業の国際競争力は乏しい。特に、稲作についてはそのことが顕著であり、日本の稲作農家の平均稲作付面積は0.9haに過ぎず、100haを超える米国・豪州の稲作や、低賃賃金の中国、ベトナムの稲作よりも生産コストが高い。

日本でも農業の構造改革が進んでおり、近年では100haを超える経営体もみられるようになっているが、都府県において5ha以上の経営体は68千戸に過ぎず(全体の4%)、1ha未満の経営体が全体の6割を占めている。また、経営規模を拡大しても、日本の水田は小規模で分散しているため10haを超えると規模拡大によるとコスト削減効果はなくなる。そのため、10ha以上の稲作でも輸入価格の2倍以上のコストがかかり、日本の稲作は国際競争力を持ちえない。

10.TPPは食品の安全性にどのような影響があるか
TPPは、物品の貿易に関して、原則として全ての関税を撤廃するとともに、非関税措置を採用・維持しないとの規定を有している。
現行のTPPは、第7章SPS(衛生植物検疫措置)の規定を持ち、①WTOのSPS協定の義務と権利は制限されない、②衛生植物検疫措置が同等であり、病気の無発生国と承認されれば、輸入国は輸出国がリスクを管理する能力を有することを認める、としている。またTPPは、第8章TBT(貿易の技術的障害)において、①WTOのTBT協定の義務と権利は制限されない、②国際基準の利用、などを規定しており、牛肉の格付けプログラム等に最初に取り組むことが合意されている(注1)。

現在日本は、米国産牛肉の輸入条件として、BSE(牛海綿状脳症)感染リスクの回避のために、SRM(特定危険部位)を除去した20カ月齢以下の牛のものに制限している。これに対して米国は、毎年提示する「対日規制改革要望・外国貿易障壁報告書」の中の「米国が関心を有する非関税障壁」の冒頭1番で、「米国産牛肉の輸入条件において、OIE(国際獣疫事務局)基準に則し、全月齢の牛に由来する全ての牛肉・牛肉製品の輸入が認められること。」を掲げている(注2) (注3)。

TPPに参加すると、第7章SPSの規定に基づいて、米国産牛肉の輸入条件の撤廃(全月齢)、または緩和(30カ月齢以下へ拡大等)が求められることが予想される。
また、「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府要望書」(08年10月)における「その他の政府慣行」では、「①有機農産物輸入、安全な食品添加物、収穫前・収穫後農薬の検査制度に関してCODEX基準に準拠する、②残留農薬基準に関して、できる限り貿易を制限することがない輸入規制措置とする」としている(注4)。

米国からの輸入食品に関する残留農薬基準違反は、09年度ではセロリ、ピスタチオナッツ、ラズベリー、とうがらしで発生しており、厚労省は米国に対する「輸出国事前調査における衛生対策の推進」として米国政府、関係事業者間等で日本の規制値等に関する情報共有を図っている。
なお、米国政府は、残留農薬基準策定時のパブリック・コメントにおいて、「①CODEX基準等ではなく主要生産国の基準値を参考にしてほしい、②外国基準を参照する場合は平均値ではなく最も緩い基準値を採用すべき」等の意見を寄せている。

日本がTPPに参加すると、牛肉と同様に、輸入食品に対する残留農薬基準の緩和等を求められることが予想される。さらに、TPPの作業部会では、国ごとに異なる食品衛生の基準などは参加国全体で整合性がある制度に改め、商取引の利便性を高めることなどが検討されており(注5)、より広範に日本の食品衛生関係の基準が変更されることも予想される。
(注)
1. 石川幸一(2010)「環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の概要と意義」 季刊『国際貿易と投資』No.81。

2. OIEの無条件物品のうち「骨なし牛肉」に関する現行基準(2010年~)からは月齢制限が削除されている(それまでは「30カ月齢以下」の条件有)。なお、「無リスク国」以外では、全月齢からの「扁桃、回腸遠位部」の除去、30カ月齢以上からの「脳、目、脊髄、頭蓋、脊柱」(これらをSRM(特定危険部位)という)の除去が求められている。

3. OIEによるステータス評価は、米国、日本とも「管理されたリスク国」(「無リスク国」ではない)とされている。

4.CODEX委員会は、消費者の健康の保護、食品の公正な貿易の確保等を目的として、1963年にFAO及びWHOにより設置
された国際的な政府間機関であり、国際食品規格(CODEX規格)の策定等を行っている(日本は1966年より加盟)。

5.2011年1月27日付「日本農業新聞」記事。

(3) TPPの日本経済への影響
1.内閣府と経済産業省のTPPの影響試算
内閣府(経済社会総合研究所)の試算は、世界の多くの研究者が使用しているGTAPモデル(応用一般均衡モデル)によってTPP等によるマクロ経済への影響を試算したものである。
これによると、TPPによって関税を撤廃した場合(米等のセンシティブ品目を除く)、日本のGDPは0.45~0.65%(2.4~3.2兆円)増加し、FTAAPによりAPEC加盟国全体の関税を撤廃した場合、GDPは1.36%(6.7兆円)増加すると試算している。なお、内閣府は、この2つのケース以外にも様々なケースについて経済成長への寄与度を試算している。

この内閣府の試算では、センシティブ品目の除外を仮定しているが、もしセンシティブ品目が除外できなかった場合には、それによるマイナスの影響が出てくる。また、この試算は日本経済全体のGDPに対する影響の試算であり、地域別、産業別、階層別の影響という視点が欠けている。
経済産業省の試算は、①日本がTPPに参加せず、かつ日本はEU・中国とのFTAも締結しない、②韓国は米国、EU、中国のすべてとFTAを締結する、の2つを仮定した場合、10年後(2020年)における影響を産業連関表を使って試算したものである。

経産省の試算によると、①、②の二つが同時に進行した場合、日本の輸出額は8.6兆円減少し、生産額が20.7兆円減少する。その結果、GDPは1.5%(10.5兆円)減少し、雇用が81.2万人失われるとしている。
経産省の試算は、EU、中国とのFTAの影響も含めており、必ずしもTPPの影響を試算したものではない。そのため、この試算では中国とのFTAの影響が大きく出ており、輸出額減少の6割は対中国輸出の減少である。また、試算の対象を自動車、電気・電子、機械産業の3業種に限定しており、農林水産業、食品産業等の他産業に対する影響は含んでいない。このように、経産省の試算はかなり極端なケースを想定しており、また主に韓国との競合に焦点を当てたものであり、日本がFTAに関して韓国に「乗り遅れる」ということを強調した内容になっている。

2.TPPに参加すれば日本の輸出は増えるか
日本は、TPP交渉参加国のうち既に6ヶ国(シンガポール、ブルネイ、チリ、ベトナム、ペルー、マレーシア)とFTAを締結している (ペルーとは未発効) 。そのため、これらの国との間では既に二国間FTAによって関税の撤廃が進められており、TPPを締結することによって日本からこれらの6カ国に対する輸出がさらに増えるという効果は期待できない。

一方、日本とFTAを締結していない米国、豪州、ニュージーランドについては、TPPによって関税が撤廃されると、日本が優位にある高付加価値工業製品を中心に輸出が増える可能性はある。 米国についてみると、米韓FTA交渉が発効すると、米国市場において日本製品は韓国製品に比べて関税分だけ不利になるため、日本がTPPに参加せず、また日米FTAを締結しないと、日本の輸出は減少する可能性がある。

ただし、米国の非農産物の平均関税率は3.3%と低く(電気・電子機器1.7%、乗用車2.5%など)、日本の対米輸出に関税がそれほど大きな障害を与えているわけではない。日本の対米輸出は、為替相場、米国経済動向や日本企業の米国における今後のビジネス展開に大きく左右されるため、TPPによって対米輸出が増えるとは一概には言えないだろう。

3.日本の金融、保険業にはどのような影響があるか
06年に締結された4カ国のTPPでは、第12章(Article12.3-2(a))において、金融サービス(金融、保険、証券関連 Annex12.A)のすべてがTPP協定の適用外とされているため、現行のTPP協定から金融・保険に対する影響を推測することはできない。

しかし、現在進められているTPP交渉では、金融サービスに関する作業部会が設置され自由化推進について交渉中であるため、金融、保険についても新たな枠組みが構築される可能性がある。

日本はこれまで金融自由化を進めてきたが、米国のより自由化された金融システムと比べると、依然として銀行設立の免許制、国内基準の自己資本比率規制など日本独自の金融監督行政上の枠組みを有しており、中小企業への低利融資等を行っている政府系金融機関、個人信用情報の取り扱いなど市場参加の障壁となる問題が残っている。また、改正貸金業法における総量規制や貸出金利の上限といった利用者保護の仕組みの違いも大きい。日本がTPPに参加すると、こうした日本の金融制度に関してさらなる規制緩和・撤廃が求め、日本の輸出上位10品目(2009年)輸送用機器8.30%半導体等電子部品4.20%鉄鋼3.60%自動車部品2.80%船舶2.50%化学製品2.30%原動機2.30%有機化合物2.10%科学光学機器1.90%電気回路等の機器1.60%(資料)財務省資料より作成(注)比率は輸出全体に対する比率
られる可能性がある。

4.郵政事業に対してどのような影響があるか
政府が100%出資している日本郵政は、TPP参加によって金融の参入障壁撤廃が求められ、将来的には各業務を分離し完全民営化しなければならない可能性がある。
郵便事業と郵便貯金事業に対する影響は、次の通りと考えられる。

(1) 郵便事業について
08年に郵便事業が完全自由化されたEUの例では、かつては原則1国1事業体の郵便事業だったが、現在ではユニバーサルサービス(差別のない公平なサービス提供)を維持しつつ、複数国で業務を行う民間企業の参入が進んでいる。これにより郵便事業のサービスは向上したと言われているが、その一方で、郵便事業単体で採算がとれるよう相次いで郵便料金値上げが行われた。日本郵政は郵便事業単体で採算は取れていないため、事業を分離した際には郵便料金の値上げは避けられないと予想される。

(2) 郵便貯金事業について
先進国を見ると、郵便貯金制度が現存する国は英仏独伊などの限られた国しかない。郵便貯金は、かつては民間銀行が富裕層のみを顧客としていたため、一般庶民に金融サービスを政府が提供するという考えに基づいて生まれたものである。現在では、民間銀行が幅広い顧客を対象とするようになったため、米国やカナダでは役割を終えたとして郵便貯金は廃止され、現存している欧州諸国でも規模を徐々に縮小させたうえで公社化または民営化されている。日本の個人金融資産に占める郵便貯金の割合は20%弱であり、欧州諸国が最大でも10%弱であるのに比べると高い割合を占めている。TPP交渉でもこの点が指摘され、郵便貯金事業は、規模を縮小したうえで将来的には民営化することを求められる可能性がある。

5.TPPによって人の移動が自由化されるとどういう影響が出るか
日本は現在でも専門技術のある外国人労働者を受け入れているが、国内企業はその技能ビザの要件緩和(現在は実務経験10年等が要件)を求めている。また、ASEAN諸国から日本に対して労働者受け入れ要件の緩和を求めており、TPPによって労働者の受け入れ要件が緩和される可能性がある。

TPPによって資格の共通化が行われ、海外から医師、看護師、弁護士、会計士、建築士などの専門技術者が流入すると、技術者間の競争が激しくなることが予想される。また、専門職以外でも、外国人労働者が安価な労働力として流入する結果、日本人の雇用が締め出され、労働市場の需給バランスに影響が出ることが懸念される。

6.地域経済にはどのような影響があるか
地方の経済に占める農林水産業、食品産業、農業資材産業のウェイトは高く、TPPは農林水産業、食品産業に大きな打撃を与える可能性が高いため、TPPに参加すると地域経済に大きなマイナスの影響を与える可能性が高い。特に、北海道、沖縄、東北、九州など農業・食品産業のウェイトが高い地域に対する影響が大きいであろう。
一方、日本は高付加価値工業製品に強みを持っており、こうした製品の生産に携わる企業が位置する地域の経済にとっては、TPPはプラスに作用する可能性は考えられる。

7.環境、生物多様性に対してどのような影響があるか
貿易自由化によって第一次産業の国際分業が進むと、農林水産物の輸出国、輸入国のいずれでも環境問題が生じる恐れがある。
一般に、農林水産物の輸出国では、大規模農場・養殖場造成などによって森林生態系・生物多様性が破壊され、それに伴って生活を自然資源に依存してきた人々が締め出されるなどの自然環境問題、生活環境問題が引き起こされてきた歴史があり、これが1992年に国連で「生物多様性条約」が採択された背景ともなっている。メキシコにおいて、NAFTAによって海洋汚染、地下水位の低下、熱帯林の破壊が進んだということがあり、TPPによって農林水産物の輸出国において環境悪化が進むことが懸念される。

一方、日本の中山間地域では、耕作放棄地などによって荒廃地が増加しており、それが病虫害や鳥獣害の発生や水路・溜池管理の困難など生活環境につながっているが、TPPによって農林水産物の輸入が増加すれば、こうした動きを加速させることが懸念される。また、農山漁村の里地・里山には日本の絶滅危惧種の約5割が生息しており、TPPによって農林水産業が打撃を受けると生物多様性にとっても大きな影響を与えると考えられる。このような影響の先例として、日本の木材輸入の増大が各林地の森林管理を滞らせ、水源涵養や土砂災害の防止、気候調整、レクリエーション、生物多様性の保全などの機能を低下させているという問題がある。このような環境問題に伴うコスト負担や生活被害は、都市部よりも農山漁村部に偏って発生すると言えよう。

(4)TPPに対する各界の意向
1.TPPに対する経済界の意向
日本は貿易立国であり、貿易によって経済成長が可能になったという考えから、日本の経済界は以前からWTO、FTA等による貿易自由化を主張してきた。TPPについても同様であり、日本の経済界は日本のTPP参加を求めており、日本経団連、経済同友会、日本商工会議所の3団体は、昨年11月に、「TPPへの参加を求める緊急集会」を共同で開催した。

しかし、産業別、企業別、地域別に見れば、TPPによりマイナスの影響を受ける産業分野や企業もあるため、すべての企業、産業界がTPPに賛成というわけではなく、例えば、北海道の経済界は、TPPによる北海道経済への打撃を懸念してTPPへの反対を表明している。
なお、かつて経済界に一部にあったような、日本に農業がなくなってもいいという主張は少なくなっており、農業を維持するためには農業を財政的に支えることも必要であるということを理解するようになっている。

2.TPPに対する地方自治体のスタンス
日本の地方経済に占める農業・食品産業の比重は大きく、多くの地方自治体はTPP参加に懸念を持っている。これまでTPPに関して意見書を議決した都道府県議会は40あり、このうち「反対」が11、「慎重に検討すべき」が23、「農業の国内対策が必要」が4、「その他」が2であり、8割の都道府県が慎重対応を求めている。

また、全国町村会(941町村が加入)は、昨年10月にTPP参加の撤回を求める緊急決議を行い、全国で1,075の市町村議会がTPPに関して意見表明しており、多くの地方自治体が日本のTPP参加に懸念を表明している。

3.北海道経団連はなぜTPPに反対しているのか
北海道庁は、日本がTPPに参加すると、北海道の米、小麦、酪農、てんさい等の生産に深刻な打撃があり、2兆1千億円の経済的影響があると試算しており、全農家戸数の7割を超える33,000戸の営農が困難になるとしている。
北海道の経済は農林水産業に多く依存しており、食品加工・流通、農業資材産業などが北海道経済に占める割合が高い。そのため、北海道経済連合会は、北海道農業協同組合中央会(JA北海道中央会)、北海道消費者協会、北海道漁業協同組合連合会、北海道森林組合連合会とともに、昨年11月にTPPに反対する表明を行っている。

4. 日本医師会のTPPに対する見解
日本医師会は、昨年12月に行った定例記者会見で、日本のTPPに参加によって日本の医療に市場原理主義が持ち込まれ、最終的には国民皆保険の崩壊につながりかねない面もあると懸念されるとし、TPPの検討にあたり国民皆保険を「自由化」にさらさないよう強く求めた。
そして、TPPによる具体的な懸念事項として、以下の4点を挙げている。

① 日本での混合医療の全面解禁による公的医療保険の給付範囲の縮小
② 医療の事後チェック等による公的医療保険の安全性の低下
③ 株式会社の医療機関経営への参入を通じた患者の不利益の拡大
(医療の質の低下、不採算部門からの撤退、公的医療保険の給付範囲の縮小、患者の選別、患者負担の増大)
④ 医師、看護師、患者の国際的な移動による医師不足・医師偏在に拍車がかかり、さらに地域医療が崩壊          

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ゆきまつ

Author:ゆきまつ
幸松(ゆきまつ) 
   孝太郎(こうたろう) 
65歳
住所:名張市百合が丘西2ー86
職業:名張市議会議員(無所属)
家族:妻、二男一女の5人家族
座右の銘:
”Mastery for Service
(奉仕のための練達)”
「”社会の中で輝いた生き方”をするために!」

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